「永松前社長が元気なうちに、なんとかしなくては。」
田中氏のクロレラ研究は、一段と熱がこもり、深夜まで電灯がつく日が多くなった。
時間と経費のやりくりに苦労したが、ついに昭和50年6月、クロレラから抽出したN・β-1・3グルカンの多糖体などを配合した複合食品「クロスタニン」の商品化に成功した。
商品名は、研究開発に苦労した先輩たちのことを忘れずに、世の人に広めるという意味をこめて、「苦労した人」のイメージからクロスタニンと名付けた。
田中氏は、永松前社長に、一番最初に見せ、、元気づけようと思い立った。
最高のカプセルを、当時世界一の技術を持つオーストラリアの「RPシェーラー」に頼んで、カプセルを作ってもらった。
永松前社長の枕元に、クロスタニンを持っていき「いよいよクロレラ事業をはじめますよ。」と報告した。
「田中君、本当によく頑張ったなぁ。ご苦労さんだった。君には何もしてあげられなかったが、よくここまでついてきてくれたなぁ。当ると思う。早く特許をとらんとあかんぞ。」
奥さんを呼び、特許事務所へ特許申請の手続きをとった。
「ところで田中君、君は過去何十年と、全てを投げ打って私に仕えてくれた。だから君には大変な借金があるだろう。」
「借金なんてありませんよ。」 永松前社長に心配をかけては…と思った。
「絶対にあるはずだ。」 さすがの田中氏も根負けした。
「実は3,600万円あります。」
「なにーっ。」
「返す当てもあるので大丈夫です。」慌てて言い直した。
「違うんだ。君が仕えてくれたことを考えると、5億以上はあるはずだぞ。それを3,600万円だなんて、そんなものは借金のうちに入るか。もっと借金せよ。そんなことでは、将来事業家になれんぞ。」
病床から体を起こす気力こそなかったが、しぼり出すような声で田中氏を励まし続けた。