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    田中美穂

    10. 微細藻類の開発

     「永松前社長が元気なうちに、なんとかしなくては。」 田中氏のクロレラ研究は、一段と熱がこもり、深夜まで電灯がつく日が多くなった。
     時間と経費のやりくりに苦労したが、ついに昭和50年6月、クロレラから抽出したN・β-1・3グルカンの多糖体などを配合した複合食品「クロスタニン」の商品化に成功した。
     商品名は、研究開発に苦労した先輩たちのことを忘れずに、世の人に広めるという意味をこめて、「苦労した人」のイメージからクロスタニンと名付けた。

     田中氏は、永松前社長に、一番最初に見せ、、元気づけようと思い立った。
     最高のカプセルを、当時世界一の技術を持つオーストラリアの「RPシェーラー」に頼んで、カプセルを作ってもらった。
      永松前社長の枕元に、クロスタニンを持っていき「いよいよクロレラ事業をはじめますよ。」と報告した。
     「田中君、本当によく頑張ったなぁ。ご苦労さんだった。君には何もしてあげられなかったが、よくここまでついてきてくれたなぁ。当ると思う。早く特許をとらんとあかんぞ。」
      奥さんを呼び、特許事務所へ特許申請の手続きをとった。

     「ところで田中君、君は過去何十年と、全てを投げ打って私に仕えてくれた。だから君には大変な借金があるだろう。」
     「借金なんてありませんよ。」 永松前社長に心配をかけては…と思った。
     「絶対にあるはずだ。」 さすがの田中氏も根負けした。
     「実は3,600万円あります。」
     「なにーっ。」
     「返す当てもあるので大丈夫です。」慌てて言い直した。
     「違うんだ。君が仕えてくれたことを考えると、5億以上はあるはずだぞ。それを3,600万円だなんて、そんなものは借金のうちに入るか。もっと借金せよ。そんなことでは、将来事業家になれんぞ。」
      病床から体を起こす気力こそなかったが、しぼり出すような声で田中氏を励まし続けた。

     

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